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1K-POP極小観察年記 in 2023

 

2023年もいよいよ終わりに近づいてまいりました。昔からKPOPを聴いていた方も今年になってKPOPを聴きはじめた方も等しく迎える年末です。「1K-POP極小観察年記」と題して今年一年を通して浮かんだ雑感を書き連ねようと思います。「1K-POP」というのは間取りの1Kと掛けた洒落ですよね(笑)伝わらないと癪なので。

 

 

今年のKPOPと聞いて何を思い浮かべるでしょう。NewJeansの躍進?止まらないフィジカルバブル?アントンくんがチェロを弾いていたこと?97年生まれの男性がコロナ禍に梨泰院に行ったこと?それは3年前か。怖。常に加速しているKPOPという産業は今年もとどまることなく進み続けてきましたね。それが良いか悪いかは別として。

プラットフォームの変容に伴って柔軟に形状を変化させてきたKPOPですが、それを最も象徴していたのはやはりFIFTY FIFTYではないでしょうか。彼女たちの軽快なディスコナンバーはTikTokの台頭に、Sped Up Ver.の台頭に、〇〇チャレンジの台頭に合致し「奇跡」と呼ばれるほどの特大ヒットを叩き出しました。その後の展開は何とも言えませんが……。

 

一方で晴れやかな結末を獲得したグループもありました。LOONAが所属事務所との裁判に全員勝訴し契約解除を勝ち取ったことも記憶に新しい出来事です。ほんまおめでとう。また飯でも行こや。もちろんすべてのグループが良い結末を迎えることはないでしょうし、てか裁判て……とは思いますが、まあとにかく良い方向へ進むことができて本当に良かったです。12人全員が一つのグループとして集まることはできませんでしたが、バラバラに散った今月の少女たちが再び一つに集まるというストーリーを想像するとワクワクしてしまうのですが、それは私の内にビョンギが住んでいるからでしょうか?

 

よく言えば名の知れた、悪く言えば出しゃばりのプロデューサーの一角ことチョン・ビョンギ(もう一角は……)。今年はビョンギ統括のMODHAUSが素晴らしい作品をリリースし続けた一年でもありました。KPOPで長く歌われ続ける力強い女性像にはどこか理想郷のような実感のなさも漂っていましたが(だからこそ多くのリスナーたちを勇気づけてきたという側面もありますが)、現実の不条理を描くtripleSは御伽噺であるからこその強かな生を歌ってくれたように思います。

 

(G)I-DLEが「Allergy」と「Queencard」で歌ったセルフラブはある意味でKPOPの現実を生々しく描いた作品だったかもしれません。2019年頃より標榜され始め、流行のように消費されていった「私は美しい」という言葉の限界と解離を逆説的に浮かび上がらせました。ITZYはEP『KILL MY DOUBT』でコロコロと入れ替わる仮面とその裏に隠れた皮肉な心を歌いました。チェシャ猫のように変幻自在な姿や完璧に書き上げられた歌詞も、まさにKPOPらしい姿でした。

 

広がりを見せるエンパワメントに希望を抱いた一年でもありました。Red Velvetは「Chill Kill」のMVで彼女たちらしいシスターフッドを描き、Apinkは「D N D」でありのままの姿を肯定してくれたように思います。人生を謳歌するLE SSERAFIMの「Perfect Night」やTWICEの「SET ME FREE」も印象的でした。先に挙げた「Rising」を始めとし、tripleSには楽観的にも悲観的にもならずに現実を現実のまま見つめ、そこに生きる人間を描く胆力がありました。

 

「Speed Love」では現代ジャズとDnBを融合するなど、tripleSは音楽的にも面白い取り組みに挑んだグループでしたが、そうでなくとも今年の韓国はUKGやDnBが流行した年でした。「PinkPantheress下」と形容されるようなドリーミーでウィスパーなクラブミュージックがCIFIKAなど韓国のエレクトロニカに見られる夢幻的な空気感と一致し、良質なUKサウンドが鳴り響く一年だったと言えるでしょう。韓国や中国におけるUKG/DnBのシーン、Y2Kやliminal space, wii aestheticなどのビジュアルの美学の合流点になっている気がするのですが、誰かそういうのを論じてください(他人任せ)。

もちろんKPOPグループもこぞってUKGやDnBをリリースしましたが、その先頭に立っていたのはやはりNewJeansでした。UKサウンドリバイバルを韓国のインディシーンを元に/へと解釈するセンスは唯一無二のものであり、イージーリスニングな楽曲は世界でも高い評価を獲得しています。JUNG KOOKは直球のポップスで爆発的なヒットを成し遂げ、TOMORROW X TOGETHERはThe Weekndの影を感じる楽曲をリリースしました。英米圏で独自の地位を築いていたKPOPはいつしかUSのポップスそのものを夢に走り出しました。世界を覆うブームに変わりいくつかの小さなものが遷移するスタイルが主流になったステージで、KPOP……もといHYBEやJYPは果たして成功するのでしょうか?

 

とはいえ、すべてのグループがそうというわけではありません。既存のKPOPを踏まえながら、流行のエッセンスも取り入れて発展していくグループも少なくはありませんでした。SHINeeは『HARD - The 8th Album』で音楽への矜持を見せてくれました。EXOの『EXIST - The 7th Album』やRed Velvetの『Chill Kill - The 3rd Album』など、SM ENTのアルバムという形式への意思が顕著になった一年とも言えるでしょう。BilllieはEP『the Billage of perception: Chapter Three』でR&BY2K的感性の合流を唯一無二のアイデンティティに仕立てました。fromis_9の『Unlock My World』はさまざまなジャンルが衝突し砕けていくKPOPというジャンルを体現した素晴らしいアルバムでした。流行のサウンドからKPOPでは聴き慣れたサウンドまでを横断し、軽やかにセルフラブを歌うその姿に説得力があるのはひとえに彼女たちの歩んできた道のりがあるからかもしれません。反対に、NewJeans『NewJeans 2nd EP 'Get Up'』は彼女たちをアイコンたらしめるJersey ClubやUKG, DnBを詰め込み、流行を追うのではなく先導するのだという意気込みを感じる作品になっていたのではないでしょうか。

 

NewJeans以外にも、2023年は今まで以上にKPOPが音楽面で大きな広がりを見せた年でした。XGが「SHOOTING STAR」「LEFT RIGHT」で高い水準の楽曲を披露したことに刺激され(たかは知りませんが)、KISS OF LIFEYOUNG POSSEなど、従来の枠に囚われないような挑戦的なグループの登場も印象的でした。IVEの「Either Way」の作詞にsunwoojungaが参加したり、SUPER JUNIORのYESUNGのアルバムにwave to earthのDaniel Kimが参加したり、もちろんNewJeansの楽曲制作のほとんどにBANAの250FRNKが携わっていることも……。韓国のインディシーンが今まで以上にKPOPと交差し、わくわくするような未来が窺える一年でもありました。

 

そして、今年はたくさんのインディアーティストが素晴らしい作品をリリースした年でもあります。21年のアルバムが世界的に高い評価を得たParannoulが年の初めに出したアルバムは、モラトリアムの少年が鳥籠から羽ばたいていくような希望を感じる作品でした。同じくロックシーンではSILICA GELの『POWER ANDRE 99』も強烈な存在感をアピールしました。無機質で有機質なサウンドはさらに強靭に、より強固な世界を築きました。SE SO NEONのギターボーカルSo!YoON!は『Episode1: Love』で有機的な愛の物語を描き、BTSのRMや韓国のジャズアーティストを呼び、繊細な姿を見せてくれました。Lee Jin Ahの『Hearts of the City』は絶望と希望が複雑に溶け合う、人を惹き込む作品でした。youraMandongのメンバーのジャズサウンドに蠱惑的な空間を展開し、JUNGWOOは素朴なボーカルでオルタナティブなロックを軽やかに歌いました。

今年はフォークアルバムも豊作で、KIM SUYOUNGの『Round and Round』に始まり、Yoon JiyoungLee Minhwi, Jeon Jin Heeなどが素晴らしい作品をリリースしました。

空中泥棒を思い出させるkhc/moribetの『Free to Air』や、Jang Myung Sun, Liu Lee, 윤느낌! (yoonfeel!), salamandaのYetsuby, Yaeji, jerdなど、エレクトロニカシーンでも才能あふれるアーティストたちがたくさんの良作をリリースしてくれました。

HIPHOPでは、強烈で硬派なE SENSや、奇妙で耳に残るビートにキャッチーなフロウを見せたBeenzino、エモーショナルに揺さぶられるOKASHIIのアルバムが印象に残りました。Balming TigerTabberなど、ジャンルの垣根を越えるオルタナティブなアーティストの存在も今まで以上に大きく感じられました。Easymindとトラックメイカーのoddeenによる意欲作『Cells Impact』はエレクトロニックとHIPHOPのさらなる交流への期待を高めてくれるアルバムでした。

 

今年はさまざまなものが越境し交差する一年だったと言えるでしょう。人々の精神からパンデミックが引いていった証なのかもしれません。ある人は不明瞭な未来へ賭け、ある人は何の危険もない安寧に身を委ね。その道が分かれていくのか再び交差するのかは知る由もありません。